Chapter Text
のぼせる寸前で熱い湯を出れば、夜のひんやりとした静謐な空気が、火照った二人を優しく出迎えた。
手早く浴衣に着替えて井戸から冷たい水を汲み上げれば、からからに乾いていた喉は心地よく潤い満たされた。
「いいお湯でしたねえ」と、隣で嬉しそうににこにこと笑いかけて。どこか張り詰めていた心の強張りが解けたようなその表情を見て、深く安堵するようにほっとする。
「そろそろ、寝ましょうか」
悪戯っぽい慈愛を湛えたにこにことした笑顔のままでそう言うと、短く「ああ」とだけ返す。長い廊下を静かに歩きながら、「それで、わたしは、どちらで寝ればよろしいので?」と小首を傾げて尋ねた。それはつまり、用意された客間で一人で寝るのか、それとも同じ部屋で寝るのか、という明確な問いの筈だったが、途端にバツの悪そうなだんまりを決めてしまう。
「…もう、客間でいいってことですか?」
少しだけむっとしたように眉を寄せて問えば、「………いや、布団は、用意した」とひどく極まりが悪そうに視線を彷徨わせながら答えるので、一体どういうことかと思いながらも大きな背中についてゆけば、辿り着いたのはいつも使っている部屋だった。そっと襖を開ければ、清潔な布団が二組、隙間なくきれいに並べて敷いてある。
一瞬だけ驚いたように目を見開いたあと、「まあ、義勇さんたら」と、堪えきれない様子でくすくす笑う。当の本人は、ますますバツが悪そうにぷいと顔を逸らした。
「もう、そんな顔しなくても。…本当に客間に通されたらどうしようかと思っていたんですよ」
悪戯っぽく口元を緩めながら、手前側の布団にそっと腰を下ろす。促されるように、その後を追うようにして、すぐ隣の奥側の布団に静かに腰を下ろした。
「寝よう」という低く短い言葉を合図に、二人揃って温かい布団の中へと滑り込む。
暗闇の中で互いにお互いのほうを向いて横たわり、静かな声でぽつぽつと他愛のない話を喋りだす。
「蝶屋敷にあなたがいるのにはだいぶ慣れましたけど、このお屋敷にわたしがいるのはなんだか不思議な感じがしますね」
「……俺も、この屋敷にはなかなか帰れていない」
「ベースが綺麗ですから。でもきちんと手をかけてらっしゃる。玄関も、お部屋も、ぜんぶ綺麗でした」
「最低限だ」
「なかなかできることではありませんよ」
心の底からの感心を伝えるようにそう言うと、不意に白い腕を伸ばす。布団の中で身体をほんの少しだけずらして、触れ合えるほどに距離を縮めた。
「…そちらへ行っても?」
まるで渇いた喉を潤す水をねだるような気軽さで言えば、何も言わずに黙って掛け布団の裾を少しだけ持ち上げ、懐へと招き入れる。するりとその温もりの中へ深く入り込めば、待っていたかのようにその愛おしい背に大きな手を回す。
「…こんな夜はめずらしいですね」
「ああ」
「わたしの屋敷には、小さい子が多いから」
「ああ」
「この屋敷は、とても静かに感じます」
「…しのぶ」
「なんですか、義勇さん?」
その愛おしい言葉を聞き終わるや否や、堪えきれなくなったように小さな口にくちづけた。
はじめから、お互いにそのつもりだなんてことは、わざわざ不器用な言葉を交わさずとも肌の熱でわかっていた。
はじめはただ確かめ合うように触れあうだけの他愛のない戯れだったが、細い腕を逞しい背に回したことで、口づけは一気に深く熱くなっていく。微かに薄く開いた小さな口の中へ、導かれるようにやってくる。ぬるり、と熱い舌が何の目的もためらいもなく滑り込んだ。
ぶるりと言い知れぬ快感に身が震えたのをしっかりと肌で気づいていたが、今更加減をすることなどできはしない。ざらりとした男烈な舌先で彼女の熱く赤い舌を絡めとり、じっくりと舐めとると、喉の奥から「んうぅ」と抑えきれない色っぽい声が切なく漏れる。上あごの敏感な粘膜までべろりと容赦なく舐めとった後、ようやく名残惜しそうに唇が離れて、奪われた酸素を求めるように小さな口で何度も短く息をする。
「しのぶ」
愛おしさを込めて名前を呼んで、そのまま着慣れた浴衣の袂に大きな手をかけた。まだ完全に暴く前の、はだけかけた胸元にわずかに指先が触れて、その恐ろしいほどの身体の熱に、おもわずたじろいだ。
「……かまいませんよ、義勇さん…」
そっと長い睫毛を伏せて、消え入りそうな小さな声でそう言った。とても十八とは思えぬほどの濃密な色香に、磁石のように強く引き寄せられる。
ぐいと左右に浴衣の襟を躊躇なく引っ張れば、闇の中に眩いほど真っ白な胸が露わに現れた。
熱いてのひらで、溢れんばかりのその両胸を愛おしそうに包み込んだ。
そのあまりに細い体に似つかわしくないほど、たっぷりと豊かに肉付いた胸は、まるで甘く熟れた桃か林檎のようで、いまにもはち切れんばかりに実っている。やわやわと手のひらで揉むだけでは到底飽き足らず、その小さな先端を口でかぷりと噛めば、肉の圧倒的な柔らかさが、唇や舌や歯までも至福で包み込む。
ありもしない果汁を深く啜るようにその柔肌に強く吸い付けば、頭上で「…今日は飢えてらっしゃる?」とどこか甘い声で尋ねた。
「……お前が、風呂を一緒にと、言うから」
白く深い胸の谷間に熱い唇を落としながら、くぐもった声で言えば、「もう… 悪い人ですね」と嬉しそうに笑う。
飽きもせず、何度も、何度も、柔らかい胸の肉を噛み、執拗に吸い付いては、そこに鮮やかな赤い痕を残してゆく。いつもそうだった。
はじめて肌を重ねたとき、翌朝になって自分の胸を見てぎょっとしたものだ。有り得もしないが、あの恋柱のような胸元の開いた隊服でなくて本当によかった、とあの日ほど安堵したこともない。
もうすでに、幾重にも愛された痕が残されていることを思って、「義勇さんは、わたしの胸がすきですねえ」と、照れ隠しについ軽口をたたくと、上に覆いかぶさっている男と真っ直ぐに目が合う。少しの間、大真面目に考えてから「…これを前にして、我慢できるほど、強靭ではない」という。
'あなた、凶悪な鬼を前にしたときはあんなに強靭に耐え抜くじゃあないですか'
と言い返したかったけれども、熱い口唇が、つんと硬く膨らんだ乳頭に無防備に触れたので、その言葉は完全に叶わなくなった。
濡れた舌と、敏感な乳頭の間を、ぬるりとした熱い唾液がじっくりとこすれ合う。その全身が粟立つような強烈な感覚に、せき止めていた声も次々と漏れてゆく。はしたなさを隠すように、慌てて口元に小さな手を当てれば、大きな手が容赦なくその邪魔な手をどかしてしまう。
「…今晩は、我慢するな」
そう言う瞳は、いつもの深い深い静謐な藍色のままなのに、その奥底には狂おしいほどの静かな炎を宿らせている。ああ、この人はやはり紛れもない男なのだな、と、その瞳を至近距離で目の当たりにして心から感じた。
「せっかく、誰も、いない」
軽く乳頭を歯で噛むと、びくん、と可愛いらしく仰け反る。はくはく、と溢れる熱を逃がすように口だけで激しく呼吸をする様は、ひどく男を扇情的につついてやまなかった。
「っん、あ…っ」
口の愛撫を受けていないほうの赤く熟れた乳首を、器用な指先で転がしはじめる。きゅうと親指と人差し指で意地悪く抓れば、「あぁあんっ」と、たまらず甘く鳴く。その狂おしい声をさらにねだるように、手を止めることなく、ぷっくりと贅沢に膨らんだ両の乳頭を、これでもかと舐め、抓み、吸い付き、深く噛む。
「っあ、あぁ, ん! やぁ、も、胸、ばかり…」
「……悪い、飽きない」
「んぅッ、あっ、んん!」
一度唇を離して、大きな両手でそれぞれの乳首をくいと力強く摘む。わざと限界まで勃たせるように、執拗極まる愛撫を続ければ、まだ若い身体は、その容赦のない刺激にとても耐え切れない。
「っあ, あ、義勇さん、やだ、も…だめ! ……っああああッ…!」
目の前で軽く達してしまった、完全に蕩けた甘い表情を見せつけられ、堪らなくなる。
血みどろの戦場であろうと、平穏な蝶屋敷であろうと、どこであろうと、いつでも美しい。
その儚く可憐な美しさが、いつでも他の男どもの目を不躾に引いていることを、苦々しく知っている。
決して浮気なぞするような浅はかな女ではないことは、心の底から信頼し、わかっている。だが、男たちの無遠慮な視線に気づくたび、自分の狭い胸の中に黒い靄のように広がる強い不快感にも、はっきりと気づいていた。
だからこそ。
こうして腕の中に組み敷かれ、自分にしか決して見せない蕩け切った顔を見るたび、胸の奥底には激しい波のように押し寄せる独占欲の感情がある。
ああ、この人を、絶対に誰にもやれはしない。この蕩け切った美しい表情は、世界の誰にも見せてやれぬ、と。
はあ、はあ、と浅い息を激しく乱している姿を見て、せめてもの水を与えてやろうと、再び優しく唇を落とした。
悪いが、今はこの身体を離して水を取りに行ってやるだけの余裕が、自分には一欠片もない。だからどうかこれで許してほしい。
注がれる口づけが、そんな言葉にせぬ不器用な気遣いだとは、甘い快感に気をやったばかりの頭では、到底理解が及ばなかった。
「義勇さん…」
ゆっくりと力なく上体を起こした、か細い熱い声で名前を呼べば、「苦しいか?」と、思わず心配そうに声をかける。
いえ、と首を振りながらも、まだ呼吸の荒い様子を見て、あまりの激しさに良心はチクリと痛んだ。
'つい、頭に血がのぼって、目の前で、果てる顔が見たくなってしまった'
なんとあさましいことだろう、と醜い自己嫌悪に近い気持ちすら抱いて、「…悪かった。無理、するな」と静かに告げる。
できるだけ労わるように優しく頭を撫でれば、一瞬だけ驚いたように丸くしたあと、愛おしそうに優しく首を横に振る。
「………だいじょうぶですよ、身体は、人より鍛えてますし…。…それに、二人きりになれるのも、本当にめずらしい、ですから」
差し出された大きな手を取って、その無骨な指先にそっと唇を寄せ、口づけを落とした。蕩けた濡れた目のままでじっと見つめられれば、痛んだはずの良心よりも、もっと獰猛な違う感情がふつふつと奮い立つ。そんな変化に敏感に気が付いて、小さく可笑しそうに微笑んで、その広い胸板へそっと柔らかな頬をすり寄せた。
「わたしも鬼殺隊の柱ですよ?…無理はしません。安心してください」
いつものように、指先でいたずらに突く。はたけかけた、逞しい胸板を、つんつんと。だが、そんな愛らしい無邪気な戯れにすら、眠っていた男の獣は、一気に煽られる。
「しのぶ… その、」
乱れた髪を大きな指で優しく整えてやりながら、ためらいがちに、しかし押し殺した声で言葉を続ける。
「……今晩は、あまり優しくしてやれないかも、しれない」
その心底申し訳なさそうな表情を見て、くすりと妖艶にわらうと、「宣戦布告ですか?のぞむところですよ」と、その耳たぶを軽く前歯で食んだ。
互いに正面から向かい合って、胡坐をかいた大きな体の上に、ゆっくりと腰を落とす。ずぶり、と肉が割り込む淫らな音が立つような気がして、思わず羞恥を覚える。
なんだか今日はいっときも離れがたくて、こうして深く抱き寄せあえる交わりのやり方を選んだ。
「っく…」
奥の最も狭い場所へみっちりと包み込まれ、それだけで堪らない、と心底思った。目の前にいる少女の、自分を蠱惑して狂わせる魅力の底知れなさに、畏怖すら覚える。決して身体だけの軽い関係などではあり得ないが、こうして繋がっているときは、いっとう激しく離れがたくなる。
そんな溢れる気持ちをやりこめようと、細い腰をぐいと強く引き寄せれば、「きゃあ」と、大きな背に細い腕を必死に回してしがみつく。
「は、あ、しのぶ」
「ぎゆ、う、さん…んんっ」
腰を荒々しく動かして最奥へと深く刺し貫いたので、ぶるる、と全身を震わせる。きゅう、と吸い付くように締め付けられたので、たまらず眉間に深い皺を寄せた。
「っあ、ん、そんなかお…しないで…」
「おまえが悪い… 今にも、溶けそうだ」
「ん、んッ… こっちだって…っ! あぁっ」
逞しい腰が猛烈に揺れて、小さく華奢な身体は簡単に翻弄され、揺さぶられる。蜜と蜜がじっとりとこすれ合うような淫らな音と、皮膚同士が激しくぶつかり合う音が、夜の部屋にはてしなく淫靡に響き渡った。
左腕で細い腰をがっちりと支えながら、空いた右手で彼女の豊かな胸を再び激しく揉みはじめた。胸を触られている、それだけで敏感な身体は一瞬で熱い反応を催す。やはりこの胸が好いのか、と確信するように再びその柔肌を噛めば、甘い喘ぎ声がさらに部屋に響いていく。
は、は、と身体を揺さぶられる激しい速度に合わせて必死に息をする姿は、目を閉じて快楽の濁流に必死に耐えていた。
「我慢、するな」
べろり、と溢れる汗ごと胸を舐め、熱い舌先で執拗に突くと「んんぅ…っ」と堪えきれず声を漏らす。顔を真っ赤に染めて、切なげに歪むその表情をもっと見たくて、大きな指を彼女の秘丘へ伸ばす。指先で探るように濡れた茂みを分け入れって、そっと熱く腫れ上がった花芯を指でなぞる。
「っ…あぁぁッ!」
突然触れられた強烈な刺激で、一際高い声をあげた。
眉間に皺を寄せ、苦し気に歓喜の声を上げるその艶やかな姿に、指の動きは止まらなくなる。
「あ、あぁっ、ん、だめ、です、いれ、ながら」
「……しのぶ」
「やあ、んっ、ああ、あ、ぎゆ、うさ…」
花芯に触れれば触れるほど、声は激しく震え、それと同時に、内壁が狂ったように締め付けた。その強烈な刺激に耐え切れず、思わず腰を動かすのを一時止めたが、満たされない切なさにみずから腰を揺らした。
「はあ、ん、ああ, ぎゆう、さん、」
ひくひくと小刻みに震える内側の熱が、自身の熱をさらに限界まで高めていった。
必死に抱き着いて、切なそうな声を上げる愛おしい姿。
首に細い腕を回し、豊かな胸は逞しい胸板にひしゃげて、すべてを預ける彼女と、もっと、もっと深く繋がっていたい、と強く願いながら、底から湧き上がる激しい欲動に、ついに自分を抑えられなくなる。
「しのぶ」
「んっ…なんですか…」
「すまん、堪らん」
「なに、どういう意味… きゃあっ」
言葉を最後まで言い切る前に、容赦なく深く刺し貫いた。一番の好い場所がぐりりと容赦なく擦れて、自然と大きく仰け反る。
背に片腕を回すと、身体を深く繋げたまま、布団の上へ強く押し倒した。その激しい動きにすら内側がうねるように吸い付き、また眉間に苦しげな皺を寄せる。
「もっと、深く…したい」
急に視界が覆いかぶさる顔と天井だけになり、状況がわからないとばかりに言葉を探している。だが、それすら一秒も待てないほどに飢えており、細い腰をがっちり掴んで深く深く、自身を穿つ。
「ん、あ、あぁ、やだぁっ… 深ぃ…っ」
「悪い…!」
ぐつぐつと今にも沸騰しそうな熱を堪えるように、短く荒い呼吸をし、それに合わせて奥を何度も突く。そのたびに、漏れる甘い悲鳴が、さらに熱を盛り立てる。
日頃は、こんなに声をあげることは決してない。
最愛の女が、ためらいもせず大声で喘ぐのが、こうも自分を狂おしく昂らせるとは思いもしなかった。
全身の血がゆだって、どうしようもない。
堪えきれず、その全てをぶつけずには、いられなかった。
「っあ、ん, あぁ、あああ」
「しのぶ、しのぶ…っ」
「義勇、さ、ん…っああ」
「しのぶ… 好きだ… お前が…俺は…っ」
ぐぐぐ、とさらに深く、肉の壁を抉れば、最奥の行き端へと完全にたどり着いてしまう。もうこれ以上は進めない。いっそこのまま本当に溶けて一つになってしまいたい、と思いながら、また自身を深く刺し込んでゆく。
「しのぶ…っ」
もう名前を呼ぶことしかできない。はあ、はあ、と息を乱し、猛烈に腰を打ち、何度も、何度も名前を呼ぶ。一生物を離したくないと、心の底から思った。
「義勇さん… っ、義勇さん…!」
小さな口を大きく開け、何度もその名を呼んだ。置いて行かれまいとするように、逞しい肩に腕をきつく回す。互いの身体はもう、凄まじい熱で浮かされあって、どうにかなりそうだった。
日頃は澄ました涼しい顔をしている男が、額に大粒の汗すら浮かべて、熱を帯びた狂おしい顔をしている。
きっとこれを”特別”というのだろう、とぼんやりと思いながら、濡れた頬にそっと白い手を伸ばす。
もう何も我慢せずともよいのだと、すべてを受け入れるために。
「だいじょぶ、です…っ、 義勇さん…!」
か細い声でそう告げれば、「…悪い…!堪えてくれ…っ」と、耐え切れず熱く口にした。言うや否や、獣のように激しく穿つ。その凄まじい熱にあてられて、極上の高みがすぐそこまで近づいてゆくのがはっきりとわかった。
「あ、あ、ん, 義勇さん、ああっ」
「しのぶ…っ は、あ、堪らん…っ お前は…!」
「ん、あ、あ、はあ、義勇さんっ」
「くっ… ああ、しの、ぶ……っ 好き、だ…ッ…!」
「あっ、ぎゆ、さ、ん…ッッ …ああああ…ッ!!」
どくどくと熱く脈打つように、溜まった熱は一気に放たれた。それと同じ瞬間に、ぶるぶるとその身を激しく震えさせて、何度も達していった。
どろりと白い腹を汚してしまったことを、申し訳なさそうに謝りながら、濡れた手ぬぐいでそれを優しく拭った。
肌を重ねることは幾たびもあったが、いつも決して中には出さなかった。どこか淋しく思いながらも、互いに明日をも知れぬ過酷な境遇を思えば、致し方ないことだとも深く理解していた。別の乾いた手ぬぐいで、簡単に互いの身を清めると、やっと落ち着いて二人で深い息をついた。
襖の隙間をふと見れば、長い夜が終わりかけ、白々と明るさを帯び始めているのがわかった。静かな朝が、近づいている。
「…朝になっちゃいそうですねえ」
ついポツリと言えば、「…悪い」とひどくばつが悪そうに言った。その素直な顔が、さっきまで自分を貪っていた獰猛な男とはまるで違うので、なんだかおかしくなる。
「昨日は鬼も倒したことですし、たまには朝寝坊しても許されると思いますよ?」
「… それも, そうか」
「起きたら、腰が痛くなっちゃってるかもしれないですが」
その言葉に、焦ったように「その、しのぶ、あの」と言い淀む。その慌てた顔もまた可笑しくて「冗談ですよ」とふふっと笑った。するりと腕の上に頭を乗せて腕枕をされると、その愛おしい頬に触れる。真っ直ぐに目が合って、にっこりと優しく笑う。
「たまには、義勇さんのお屋敷で過ごすのもいいですね」
「また、来ればいい」
「ええ、伺います。でも私のお屋敷では、あんな荒っぽいことは絶対に禁止ですからね? 声も我慢しないといけないですし…」
「っ! わ、わかっている」
「本当ですか? 癖になったりしてません?」
「……寝るぞ」
「癖になってるんですか? ねえ?」と、いつものように意地悪く突いてからかった。ひとしきりそうして満足したように、互いの背中に腕を回す。身体はひどく疲れていたが、互いの存在で満たされた身体は、ほどなくして心地よい眠りについた。
それから、月に一度は、義勇の屋敷へやってくるようになったという。果たして義勇が本当に「癖」になってしまったかどうかは、しのぶしか与り知らぬところである。
